最高裁判所第三小法廷 昭和26年(あ)254号 判決 1952年7月15日
本籍
朝鮮慶尚南道大邱府南山町
住居
愛知県一宮市大山町九五番地
職工
山本秀雄こと
崔炯秀
大正八年九月二二日生
右の者に対する酒税法違反被告事件について昭和二五年一二月八日名古屋高等裁判所の言渡した判決に対し被告人から上告の申立があつたので当裁判所は次のとおり判決する。
主文
本件上告を棄却する。
当審における訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
弁護人吉原歓吉の上告趣意第一点について。
論旨は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。所論の告発書に契印を欠いていることは、所論のとおりであるが、右告発書はその筆跡、記載内容等からみて一体を成しているものと認められるから、無効とすべき理由が存しない。また、所論の箇所に所論のような文字の挿入削除がなされているにかかわらず、その箇所に作成者の認印がなく、且つ挿入削除の字数の記載もないけれども、かかる場合直ちにこれを無効とすべきものではない。それゆえ。右告発書の無効であることを主張し、延いて公訴の訴訟条件を欠くものとする論旨は採用することができない。
同第二点について。
憲法三六条にいわゆる残虐な刑罰とは、不必要な精神的肉体的苦痛を内容とする非人道刑罰を意味し、法律の許容する範囲内で言渡した刑が、たまたま被告人の側からみて過重であつても残虐な刑罰といえないことは、当裁判所の判例(昭和二二年(れ)第三二三号、同二三年六月二三日大法廷判決)とするところである。それゆえ、原判決が法定刑の範囲内で言渡した罰金刑をもつて違憲なりとする論旨は、採用することができない。
同第三点について。
所論の点については、上告人は原審において控訴趣旨として主張しなかつたところであつて、原判決はこの点につき何等判断を加えていないのであるから、上告適法の理由とならないのみならず、論旨は、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。
その他記録を調べても刑訴四一一条を適用すべきものとは認められない。
よつて同四〇八条、一八一条により裁判官全員一致の意見で主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 井上登 裁判官 島保 裁判官 河村又介 裁判官 小林俊三 裁判官 本村善太郎)